サラリーマン、月1タイムリープ中|第1話:誕生日ケーキと屋根の上

屋根の上で夕陽に照らされる男。その背中は静かに語る。“普通”の人生が、少しずつズレ始める前の瞬間――。 小説・創作

私の名前は田中進次郎。 いつの間にか40歳を超え、気がつけば“アラフィフ”と呼ばれる歳になった。

リフォーム会社に勤める、どこにでもいるサラリーマン。営業や見積もりもこなすが、職人不足のいま、現場に出るのも当たり前になっている。屋根や外壁の工事では、今日もヘルメット姿で汗を流す日々だ。

姉さん女房と、小学4年生の息子が一人。たぶん、普通。――普通と言っていい生活をしていると思う。

普通に仕事をして、家に帰れば家事を手伝う……いや、率先して行う。子どもとも積極的に遊び、時には宿題を見てやったりもする。

どこからどう見ても、普通のはず。普通じゃないのは、奇妙な能力があることくらいだ。

この能力に気づいたのは、ある“事故”がきっかけだった。

それは夏の暑い日の現場だった。どうしても早く帰りたかった。というのも――妻の誕生日だったからだ。

これまでにも何度も迎えてきた妻の誕生日。特別なことをしてきたわけじゃない。ただ、息子と3人でささやかな誕生日パーティーをするだけ。それだけが、わが家の“特別”だった。

けれど、昨年やらかしてしまった。忙しさを理由に、プレゼントの準備を忘れてしまったのだ。

ささやかなはずのパーティーは、見るも恐ろしい“地獄”と化した。

だからこそ、今年は絶対に失敗できない。プレゼントはすでに用意してある。だが、念のためケーキも買って帰ろう。人気店のケーキなら間違いない。

なぜ、人気店は予約を受け付けてくれないのか? そんなことを恨めしく思いながら、私は現場作業に集中した。もちろん、手抜きはしない。手早く、丁寧に。それが信条だ。

ふと、同じ作業をしていた後輩社員が視界の端に映った。どうも顔色が悪い。

この猛暑の中、屋根の表面温度は70℃近いと言われている。体感温度で言えば、50℃は軽く超えるだろう。こまめに水分と塩分を補給し、休憩を挟みながら作業するのが鉄則だ。

だが、どうやら後輩は、私の作業ペースに遠慮して休めなかったようだ。

「休憩するぞ」と声をかけようとした、その瞬間。彼はフラッと後ろに倒れかけた。

咄嗟に私は手を伸ばし、彼の腕を掴んだ。

彼は――屋根の上で倒れた。そして、代わりに私が落ちた。

あの時、私は死を覚悟した。

数週間の寝たきり。目を覚ましたとき、最初に浮かんだのは――「妻の誕生日を祝えなかった」ことへの恐怖と罪悪感。

数か所の骨折で済んだことを、医師は「奇跡」だと言った。だが――本当の奇跡は、“能力”が使えるようになったことだった。

これは、冴えない中年男の、“ちょっとだけ不思議な日常”の始まりでもある。


次回』、第2話:はじめての“やり直し”。 まさかこんな形で発動するなんて――。

【エピローグ】

私はあの日、買えなかった人気のケーキ屋の前を歩いていた。
ここのケーキは、いつも行列ができていて、中々手に入らない。
多くのサラリーマンにとっては、偶然近くで仕事がない限り、立ち寄ることすら難しい場所だ。

どうやら今も、予約は受け付けていないらしい。
家族や恋人にプレゼントできたなら、どれほど喜んでもらえるだろうか。
でも、そう簡単にはいかない。

そんな中、最近になって私は違う方法を知った。
ネット通販だ。
並ばず、焦らず、大切な人に喜んでもらう準備ができる。
本当に、便利な時代になった。

今年の誕生日は、きっと笑って迎えられそうだ。

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【次回はこちら】
👉 第二話:やり直し

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