サラリーマン、月1タイムリープ中|第3話:仮説

空を見上げ、奇妙な能力の存在に気づき始めた中年作業員・田中進次郎 小説・創作

この奇妙な出来事を経て、私は仮説を立てることにした。

もちろん、過去にこのような体験は一度もない。
思い当たる節があるとすれば、あの事故くらいだ。

あの事故で、私は何かしらの奇跡的な偶然が重なり、何かしらの潜在的な能力の一部が、何かしらによって――。

……分からない。

私はこれまで霊感や超能力といった類の力を感じたことはなかった。
そういう力の存在を完全に否定しているわけではないが、自分とは無縁の話として割り切っていた。

それが、突然この有様だ。

とにかく私は、あの日初めての「瞬間タイムリープ」のような体験をしてから、
この半信半疑の不思議な力を理解するために、いろいろと試してみることにした。

まず1つ目。
「どうすればこの力が使えるのか?」

これは、すごく単純だった。

ただ、強く、ひたすらに強く念じること。
**戻りたい、やり直したい、**と心の底から強く思うこと。

それだけでいい。

次に、
「どのくらいの時間を遡れるのか?」

これは、正直少しがっかりだった。

最大で6時間程度。

初回のように数分程度の巻き戻しは簡単だが、どれだけ強く念じても、1日前には戻れなかった。

どんなに強く思っても、「6時間前」までが限界。

さらにわかったことがある。

時間を遡っても、周囲の人間には**“やり直している”ことは気づかれていない。**

つまり、記憶を保持しているのは私だけ。

これは有利だと思う。
だが、それと同時に、恐ろしさもあった。

そして、最も残念なこと。

この能力は、1ヶ月に1回しか使えないということ。

30日間に1回ではなく、カレンダー上の月ごとに1回という仕様。

例えば、4月に1回使ったら、次に使えるのは5月1日以降。
さらに残念な事は、使わなかった場合でも「繰り越し」ができない。
スマホでもギガ繰り越し出来るのに、だ。

これを知ったときは、
「ああああ!使っときゃよかった!!」
と叫びたくなった。

こうして私は、何ヶ月かかけてこの能力について少しずつ理解を深めていった。

もちろん、まだすべてを解明できたわけではない。
だが、ひとつだけ言える。

普通だった中年男が、特別な能力を手に入れたということ。

この、何とも中途半端な能力。
名前をつけるほどのものかは分からないが、少なくとも私は、これを**“無駄にはしたくない”**と思っている。

映画やアニメのヒーローにはなれない。
でも、人生のどこかで、使いどころはあるかもしれない。

次回予告ここが使い時?それとも…第四話「使いどころ」5月6日頃公開予定

【エピローグ】

「出来ればで良いんだけど、帰りに牛乳買ってきて。」という妻からのLINE。
これは「出来れば」では無い。
「必ず」という意味だと私は理解している。

仕事帰りに近所のスーパーへ寄ることにした。

目的の牛乳をかごに入れ、ついでに子供のお菓子、そして念のため、妻の好きなお菓子を手に取る。
「買いすぎ!」と怒られるかもしれないと思い、子供も妻も好きなお菓子を1つにする。

レジを終えてエコバッグに詰める。

ふと、袋詰め台の横にある無料求人誌に目が止まった。
「警備員、募集中!」の文字。
そして幼い頃、警察官に憧れていたことを思い出す。

警察官は、まさしくヒーロー。
だが今更なれるようなモンじゃない。

警備員か。
警備員も、制服を着て警棒のような物を持って、泥棒や犯罪者からビルや施設を護るのだから、ヒーローだよな……。

今の仕事を辞めるつもりは無い。
けれど、ほんの少しだけ――想像してしまった。

求人誌を、そっとエコバッグに滑り込ませた。

※この記事には広告リンクが含まれています

コメント

タイトルとURLをコピーしました