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サラリーマン、月1タイムリープ中|第10話:伝える勇気と、月の代償

山下の恋愛相談にのる進次郎 小説・創作
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11月。 日を追うごとに風が冷たくなってきた。 季節が進むにつれ、私の身体も少しずつ限界を迎えている気がしていた。

タイムリープ――月に一度だけ、時間を巻き戻す力。 誰かを助けるために。何かを変えるために。 私はその使い道をずっと探してきた。

だが、先月から感じている体の異変が気にかかっている。 先月のことだ。通りすがりの少年がひったくりを起こす未来を見て、それを止めた。 正しいことをしたという確信はあったが、あのあと立っていられないほどのめまいに襲われた。

今月も、私は誰かを助けられるだろうか。

そんな中、気になるのは山下の様子だった。 仕事中もどこか上の空で、ため息が増えている。

「どうした、山下。なんか元気ねえな」

「……彼女にフラれました」

原因は山下が約束を守らず、飲み歩いてばかりいたことらしい。 一方的に愛想を尽かされてしまったとのことだった。

「ヨリ戻したいんすよ。でも、もうダメっすかね……?」

「真剣に謝れば、きっと伝わるさ」

そうアドバイスした私に、山下は少し元気を取り戻したように見えた。 ちょうど彼女の誕生日が週末にあるという。 「この日にちゃんと謝って、やり直したい」と決意を口にした。

私は静かに頷いた。

――そして週末。

心配で、私はこっそり後をつけていた。

待ち合わせ場所に現れた山下は、きっちりした身なりで、少し緊張している様子だった。 手には有名ブランドの紙袋。 彼女が以前から欲しがっていたバッグが入っているらしい。

しかし、紙袋を開けた彼女の表情が一変した。

「……なにこれ?」

中から出てきたのは、一冊の下品な本。 タイトルは『女は黙ってついてこい!偉そうな女をしつける男塾!』

その場は凍りついた。 彼女は顔を真っ赤にして、山下の頬を打った。

「何で? そんなはず……」

山下は混乱していた。

問いただすと、彼は緊張を和らげるため、待ち合わせ前に立ち飲み屋へ寄ったらしい。 どうやら、そこで紙袋を取り違えてしまったようだった。

(……ここだ)

私は深く息を吸い、意識を集中させた。

(戻れ……)

頭がズキンとした。 それでも、目を開けると時間は戻っていた。

ちょうど山下が立ち飲み屋に入ろうとする瞬間だった。

「山下、ちょっと待て!」

「シンさん? どうしたんすか、こんなとこで」

「緊張してるのは分かる。でも飲むな。お前が今やらなきゃいけないのは謝ることだ。全力で、まっすぐにな」

驚きながらも、山下は頷いた。

その後、彼は無事に彼女と会い、謝罪とともに正しいプレゼントを渡した。 結果、彼女の怒りは解け、2人はヨリを戻すことになった。

私は少し離れた場所でその様子を見届け、静かに立ち去ろうとした。

その瞬間、再び身体に異変が走る。 目の奥がチカチカと痛み、膝がガクンと抜けそうになった。

(……いよいよヤバいかもしれん)

電柱に手をついて呼吸を整える。

それでも私は心の中でこう呟いた。

(まだ、大丈夫だ。あと少し……もう少しだけ、この力で)

不思議な『能力』の終わりが近いのでは?と直感的に思う進次郎だった。

次回予告 いよいよ『最終章 前編』 

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