11月。 日を追うごとに風が冷たくなってきた。 季節が進むにつれ、私の身体も少しずつ限界を迎えている気がしていた。
タイムリープ――月に一度だけ、時間を巻き戻す力。 誰かを助けるために。何かを変えるために。 私はその使い道をずっと探してきた。
だが、先月から感じている体の異変が気にかかっている。 先月のことだ。通りすがりの少年がひったくりを起こす未来を見て、それを止めた。 正しいことをしたという確信はあったが、あのあと立っていられないほどのめまいに襲われた。
今月も、私は誰かを助けられるだろうか。
そんな中、気になるのは山下の様子だった。 仕事中もどこか上の空で、ため息が増えている。
「どうした、山下。なんか元気ねえな」
「……彼女にフラれました」
原因は山下が約束を守らず、飲み歩いてばかりいたことらしい。 一方的に愛想を尽かされてしまったとのことだった。
「ヨリ戻したいんすよ。でも、もうダメっすかね……?」
「真剣に謝れば、きっと伝わるさ」
そうアドバイスした私に、山下は少し元気を取り戻したように見えた。 ちょうど彼女の誕生日が週末にあるという。 「この日にちゃんと謝って、やり直したい」と決意を口にした。
私は静かに頷いた。
――そして週末。
心配で、私はこっそり後をつけていた。
待ち合わせ場所に現れた山下は、きっちりした身なりで、少し緊張している様子だった。 手には有名ブランドの紙袋。 彼女が以前から欲しがっていたバッグが入っているらしい。
しかし、紙袋を開けた彼女の表情が一変した。
「……なにこれ?」
中から出てきたのは、一冊の下品な本。 タイトルは『女は黙ってついてこい!偉そうな女をしつける男塾!』
その場は凍りついた。 彼女は顔を真っ赤にして、山下の頬を打った。
「何で? そんなはず……」
山下は混乱していた。
問いただすと、彼は緊張を和らげるため、待ち合わせ前に立ち飲み屋へ寄ったらしい。 どうやら、そこで紙袋を取り違えてしまったようだった。
(……ここだ)
私は深く息を吸い、意識を集中させた。
(戻れ……)
頭がズキンとした。 それでも、目を開けると時間は戻っていた。
ちょうど山下が立ち飲み屋に入ろうとする瞬間だった。
「山下、ちょっと待て!」
「シンさん? どうしたんすか、こんなとこで」
「緊張してるのは分かる。でも飲むな。お前が今やらなきゃいけないのは謝ることだ。全力で、まっすぐにな」
驚きながらも、山下は頷いた。
その後、彼は無事に彼女と会い、謝罪とともに正しいプレゼントを渡した。 結果、彼女の怒りは解け、2人はヨリを戻すことになった。
私は少し離れた場所でその様子を見届け、静かに立ち去ろうとした。
その瞬間、再び身体に異変が走る。 目の奥がチカチカと痛み、膝がガクンと抜けそうになった。
(……いよいよヤバいかもしれん)
電柱に手をついて呼吸を整える。
それでも私は心の中でこう呟いた。
(まだ、大丈夫だ。あと少し……もう少しだけ、この力で)
不思議な『能力』の終わりが近いのでは?と直感的に思う進次郎だった。
次回予告 いよいよ『最終章 前編』
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