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サラリーマン、月1タイムリープ中|第11話「焦燥と疾走」【中編】

小説・創作
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山下のバイクは、まさに風を切るように走った。

「信号、無視すんなよ!」

「してません! してないっすけど……ギリギリは攻めます!」

風圧で目を開けるのも難しい中、私はヘルメットの中で必死に祈っていた。どうか間に合ってくれ、と。どうか、助けさせてくれ、と。

あと何分で発車する?

あと何秒で、あの車両は――。

「到着まで、あと5分ってとこっす!」

山下の声がヘルメット越しに飛んでくる。

駅まではあと数キロ。渋滞の車列をすり抜け、法定ギリギリを超えた速度で、バイクは市街地を駆け抜けていく。

そして――ようやく、駅のロータリー前。

「ここで降りてください! 俺たちはバイク置いて後で行きます!」

「助かった、山下!ありがとう!」

私はバイクから飛び降りるようにして、駅構内へ走り出した。

大きなスーツケースを転がす観光客、弁当を持ったビジネスマンたちの間を縫いながら、私は全力でコンコースを駆けた。

アナウンスが耳に届く。

《まもなく〇〇発、東京行きの新幹線が発車いたします》

(間に合え……間に合ってくれ……!)

ホームへの改札を強引に突破し、階段を駆け上がる。

構内には駅員たちがざわめきながら無線で何かを連絡している。

私はホームに飛び出し、すでに乗車を終え、ドアが閉まりかけている新幹線を目にした。

「待てっ……!!」

間一髪、私は一番後ろの車両に滑り込むように乗り込んだ。

「お客様! なにを……!」

駅員の制止を無視して、私は車内を走った。

(どこだ……どこに乗ってる……!?)

自由席か、指定席か。車両番号すらわからない。節約家の妻なら自由席かも……いや、子連れなら指定席か?

パニック寸前の思考のなか、私は運転席のある先頭車両へ向かった。

「止めろ……お願いだ、止めてくれ!」

運転室前のインターホンに向かって叫ぶ。

「危険だ! この新幹線、車輪に異常がある! 出発させちゃいけない!」

応答はなかった。

後方から駅員たちが追いかけてくるのが分かる。

私はインターホンを叩いた。

「事故が起きる! 死ぬ人が出るんだ……!」

すると、運転士らしき男がドア越しに顔を出した。

「お客様、おやめください。点検はすでに済んでいます。ご退車を――」

「点検じゃ分からないんだ! 内部の金属疲労が……! 走らせたら脱線する! 信じてくれ……!」

「根拠は?」

私は答えられなかった。

「もうすぐ警察を呼びますよ。今すぐ降りなさい」

ドアが閉まりかける。

私は咄嗟に腕を伸ばし――

ガンッ。

ドアが止まった。運転士の肩を掴み、もう一度叫ぶ。

「止めろって言ってんだろ!!」

その瞬間。

「やめろ!!」という叫びとともに、駅員が飛び込んできた。

私は引き剥がされ、ホームへと引きずり出された。

「暴行だ!」「警察を!」

「違う……俺は……!」

制止しようとする私の腕が押さえつけられ、背中に強い衝撃。

「ぐっ……!」

「もう出発できません! 念のため全車両点検を!」

構内に響いた駅員の叫びが、かすかに耳に入った。

だが、私はもうそれどころではなかった。

頭が、ズキンと痛んだ。

視界が歪む。世界が傾く。

(あぁ……やばい……今回は……本当に……)

次の瞬間、世界は真っ白になった。

気がついたとき、そこは病院のようだった。

ぼやける視界の中で、天井のライトが滲んでいた。

誰かの声が聞こえる。

「……患者の意識が……!」

「……タナカさん! 聞こ…ま…すか?」

何かが外れていく。

体が、冷たくなっていく。

(俺は……ちゃんと……間に合ったか……?)

最後に思い浮かんだのは、健太郎の笑顔だった。

そして――意識は、途切れた。

(続く) 次回 土曜更新予定

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