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サラリーマン、月1タイムリープ中|第6話:真夏の屋根と、禁断の一杯

中年男性(進次郎)、汗をかきながら屋根の上で作業中 小説・創作

暑い」 とにかく暑い。何度目だろう、この言葉。 1日に何回同じフレーズを繰り返しているのか。言ったところで、何も変わらない。それでも言わずにいられない。それが、ここ数年の夏だ。

テレビでは毎年、「猛暑」「酷暑」と騒ぎ立て、危険指数なるものも表示される。 「不要不急の外出は控え、適切にエアコンを使用してください」などと。

……仕事は不要不急ではないのか? そんなことを、つい考えてしまう。思考回路がまともじゃない。脳まで溶けそうだ。

こんな日は、時間を戻すんじゃなくて、早送りしたくなる。

7月も終わりに差しかかったある日、今年の最高気温を更新したこの日。 そんな日に限って、屋根の応急修繕作業が入っていた。

ゲリラ豪雨に見舞われた家屋の修繕。 夏の天気は読めない。突然の雨に備えて、今やっておかねばならない仕事だ。

「何もこんな日に……」と思わなくもないが、依頼があるからにはやるしかない。 空を見上げながら、全身汗まみれで作業に打ち込む。

休憩中、施主の奥様が冷えたスポーツドリンクを持ってきてくれた。

「ご苦労さまです」 「ありがとうございます」

ゴクゴクと喉を鳴らして飲む。うまい。五臓六腑に染みわたる。

「こんなに暑い日は、ビールの方がよかったかしら?」と、奥様が笑いながら言う。

もちろん、アルコールは絶対NG。

……なのに、その一言が脳に刺さる。

(うまいだろうな……)

一度そう考えてしまうと、もう駄目だ。 頭の中はビールで埋め尽くされる。

焼き鳥屋ビール冷えたジョッキ。 思考がどんどん膨らんでいく。

「今日くらいは、いいんじゃないか?」

ふと浮かんだ一案。

(そうだ、“アレ”があるじゃないか)

能力。 月に一度だけ時間を戻せる、あの不思議な力。

「今月はまだ使っていない」

月末まで数日。 今使ってしまっても、まぁいいか。

「じゃあ、今日は……楽しむか」

仕事を終え、報告書を出し終えた私は、その足で駅前の焼き鳥屋に向かった。

店の前で少しだけ立ち止まり、葛藤する。

(1杯だけ、1杯だけ……いや、どうせならメガジョッキでガッツリ飲みたい)

そう思って、扉を開けた。

「いらっしゃいませ〜!」

威勢の良い声に迎えられ、カウンター席に座る。

メガジョッキの生ビール焼き鳥2品を注文。

すぐに運ばれてきた巨大なジョッキ。

ゴクゴクゴクリ——。

「……あああ、うまい!

思わず声が漏れる。

焼き鳥もすぐに届き、至福の時間が流れる。

だが——ビールは、すぐに無くなった。

「……もう無いのか」

一気に飲みすぎた。まだ15分も経っていない。

(この満足感のなさ……)

思い立つ。

(よし、“アレ”を使おう)

目を閉じ、深く念じる。 (戻れ、戻れ、戻れ……)

「お待たせしました!」

新品のメガジョッキがテーブルに置かれる。

成功だ。

今度は、じっくり味わいながら飲む。

アテには枝豆と冷奴。

ゆっくり、丁寧に、そして大切に、1杯を楽しむ。

幸せって、こういうことだろう。

30分ほどして店を出て、電車に揺られて帰宅。

玄関では妻と息子が迎えてくれる。

「おかえりなさい」

あぁ、幸せだ。家族がいるって、こういうことか。

「今日は暑かったわね。テレビで最高気温更新って言ってたわよ」

「晩ごはん、スーパーのお惣菜でごめんね。……でも、すっごい安かったの」

テーブルの上には、焼き鳥、枝豆、冷奴

そして——

「はい。1本だけよ」

冷えた缶ビールが差し出される。

「お、おぉ〜。ちょうど飲みたいと思ってたんだ」

——3杯目。

時間は戻っても、体感は戻らない。

しじみパワーにすがりながら、私は願う。

「明日は、雨が降ってくれないだろうか……」

【エピローグ】

翌朝は軽い二日酔いだったが、内勤の一日で助かった。
やはり“あの使い方”は正しくなかったのかもしれない。
午後、LINEに兄から久々の連絡があった。
「盆休み、空いてる?」
特に予定もなかった私は素直にそう返した。
都会のバーで自由に生きる兄。
何年も会っていないが、どこかで気になっていた。
ただ、その時は、あの一通のメッセージが
何を意味していたのかを、まだ知らなかった。

次回予告 ついにやってしまうのか?「禁断のギャンブル!?」

近日公開予定

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