華やかなネオンの裏側には、笑いも涙もある。
キャバクラの世界というと、どうしても「怖い」「汚い」「危険」みたいなイメージを持たれがち。
でも実際に働いてみると、そこには人間くさい笑いも、温かい友情もある。
今回は、そんな夜の世界で出会った忘れられない仲間。
ボリビア出身の陽気なサブマネージャー・ボビーさんとの思い出を綴ります。
ボビーという男
ボリビア出身のボビーさん。
ギョロ目の黒人、見た目はちょっと怖い。
でも、めちゃくちゃ陽気で優しい人でした。
日本に来てすぐに水商売の世界で働き始め、今の店は3軒目だそうです。
夢は『外国人向けのバーを開業する事』と、教えてくれました。
殆どの日本語を理解していましたし、充分会話出来ましたが、
やはり外国人特有のイントネーションや、【サ行】が苦手なようで、
少し聞き取りにくい事もありましたが、
素敵な笑顔で周りを明るくしてくれる人でした。

夜の世界のルールと役職
店の決まり事で、スタッフの名称には役職を付ける事が決まっており、
〇〇さん・〇〇くんは禁止されていて、本来なら『ボビーサブマネージャー』と呼ばなくてはなりません。
だけど、ボビーさんだけは皆が名前で読んでいて、
自らもそうしてくれと仰っていたので、私もボビーさんと呼ばせてもらっていました。
スピード出世と「主任」という肩書き
半年程働いていた夜の世界で、私はスピード出世を果たし、
既に【主任】という役職を与えられていました。
主任とは、ウェイター達の業務管理を任される役職です。
まぁ、正直、大した事無いです。
その【主任】の上の役職が【サブマネージャー】でした。
サブマネージャーになるには、社員にならなければなりません。
そして、サブマネージャーになると、やっと**「女子スタッフと口を聞く事」**が許されるのです。
女子回しという仕事
何故なら、サブマネージャーはホール全体をマネージメントする補佐。
『回し』と呼ばれる業務もサブマネージャーの仕事でした。
回しとは、
- お客さんの席に付ける女子スタッフを選ぶ
- 店内の状況を見て女子スタッフの席替えをする
- 女子スタッフが『指名』を貰えるように戦略を立てる
まさに店内を賑やかにしていくように“回す”事です。
女子スタッフともコミュニケーションを取らなければならないので、
当然会話をしていかなければ仲良くなりません。
仲良くなると、彼女達の個性や、どの組み合わせなら会話が盛り上がるか等、色々と分かっていくからです。
クレームと降格、そして友情
ボビーさんは、その【サブマネージャー】でした。
しかし、冒頭でも話したように、日常会話には困らないボビーさんの日本語。
ですが、日本人特有の言葉の裏に潜む感情や、曖昧な表現は理解しにくいようで、苦労されていました。
ある日、女子スタッフから、
「ボビーさんの女子回しはイヤ」
というクレームが入りました。
酷いとは思いましたが、仕事です。
彼女達だって、より良い仕事をする為に、沢山稼ぐ為に頑張っているのは事実であり、
これも夜の世界のプロがプロである為に伝えなければならない業務連絡ではあります。
その日からボビーさんは、『女子回し』を外される事になりました。
外されたボビーさんはホールのウェイター業務や、キャッチ、店の出入り口での応対をメインにする事になり、
キャッチ中にはよく話す機会も出来て、更に仲良くなれたのは、私にとっては嬉しい時間となりました。
店が沸いた夜
ところが、ある日問題が発生しました。
その日、女子回しが代わったのが功を奏したのか、店内は大流行。
夜の街も賑わっていて、キャッチもドンドン成功し、お客さんが一杯です。
私も、ホール内でウェイター業務に回され大忙し。

キャバクラの裏側:指名と時間の駆け引き
お客さんが多い時に困るのは『指名被り』です。
人気のある女子スタッフは、常連からはもちろん、新規のお客さんからも『場内指名』が入ります。
ここは、『女子回し』をしているサブマネージャーの手腕が光るところ。
お客さんを苛つかせず、尚且つ公平に時間配分を考え、女子スタッフを席に付けます。
余談ですが、キャバクラは時間制限があります。
基本的に1時間〇〇円〜となっていて、この1時間で帰ってしまうお客さんもいれば、
飲んでるうちに楽しくなり延長してくれるお客さんもいます。
もちろん、店側としては後者のお客さんを多くしたい。
そこで、女子回しの腕前が重要となるのです。
延長を決める一言のタイミング
「もうすぐ1時間経ちますが、どうしますか?」
と言う事をお客さんに伝える。これを伝えるのは女子スタッフ。
「延長しようよ。もっと一緒に居たいよ」
と女の子は【おねだり】をする。
では、お客さんは誰に言われたいか?
もちろん、可愛くてお気に入りの女の子に言われたい。
さぁ、ここです!
このタイミングを狙って、お客さん好みの女の子を席に付けなければなりません。
指名被りの時なんて、タイミングによっては命取り。
時間ギリギリだと、スネて帰るお客さんもいますし、
別のテーブルで盛り上がってる所から移動させると途端に機嫌が悪くなるお客さんも居たり。
お客さんの性格、場の雰囲気、お財布事情、今後に繋がる可能性…。
意外と色々考えてやってるもんなんですよ。
このタイミングの上手さは、かなり影響あります。
もちろん、女子スタッフの接客力が肝心要ではありますが。
フィーナ事件、発生!
話がそれてしまいました。
で、その忙しい夜、出入り口で受付応対していたボビーさんから、インカムに連絡が入ります。
店内は大忙しで、私も氷やグラスを片手に、各テーブルでの注文を受付ていました。
「…ビーです。ボビーです。エー、3名のお客様デス。
2人はゴシンキのお客様。オヒトリサマは、フィーナさんご指名デス。 イケマスか?ドーゾ」
ん?誰?
ウチの店に『フィーナ』という源氏名の女子は居ない。
一瞬の間があったが、すぐに店内最強の男、副店長が応じる。
(なぜ最強か?はコチラの記事で詳しく書いてます👉キャバクラ日誌 本当に強い男とは?)
『ボビ、ボビー。ごめん、誰って?誰、指名?もう1回言って』
『フィーナさんデス。フィーナさんご指名デス。』
『ボビ、ちょっと待って。シイナさん?ヒナさん?』
ウチの店には店内屈指の人気嬢の『ヒナさん』と、まぁなんと言うか個性的な顔立ちの『シイナさん』が居る。
ヒナさんは、現在も店内で指名被りが4テーブルもあり、これ以上の指名被りを増やすのは危険過ぎる。
一方、シイナさんは暇を持て余している。
確率的に言えば、ヒナさんの可能性は高い。
だが、シイナさんは一部のお客さんから絶大な支持を得ている。可能性はゼロじゃない。
『フィーナさんデス。フィーナさんご指名デス。』
『ボビ、ボビ、ボビ!どっち?ヒナさん?シイナさん?聞こえないよ!』
『フィーナさんデス!』
『ボビ、ゆっくり言って!』
『フィ・イー・ナ・さんデス!』
笑いを堪えるのがキツイ。
大の男が2人、どちらも真剣にやり取りしてる。
その2人のやり取りが、面白すぎる。
私だけではなく、インカムを付けたスタッフは必死に笑いを堪えている。
何せ、全てのやり取りはインカムを耳に付けた者にしか聞こえない。
お客さんや女子達に気付かれる訳にいかない。
『ボビ!駄目だ。分からん。シイナ?リナ?』
『フィーナ』
アカン、もう無理。
ほぼ同時に全員が口元を抑えた。

笑いの結末と、突然の別れ
『ボビ、もういいよ。入れて』
副店長が覚悟を決めた…。
間もなく店内の扉が開かれ、3名のお客様が入店する。
「いらっしゃいませ!」
明るく大きな声でお出迎えする。
そして、肝心のご指名は……。
『3名様ご来店です!1名様、リナさんご指名です!』
ヒナさんでも無く、シイナさんでも無く、
リナさんだった。
ボビーさん、【サ行】だけじゃ無く【ラ行】も苦手だったんスね…。
サイコーッス。
めっちゃ笑いました。
そんなボビーさんも、ある日突然居なくなってしまいました。
さすがに女子スタッフに手を出したとかでは無かったんですが、
突然来なくなってしまいました。
かなり残念で、気になったのですが、
誰も行方を知らないまま、私が辞めるその日まで、ボビーさんとは会えないままでした。

今でも思い出す、最高の仲間
夢が叶ってると良いなぁ。
何処かでボビーさんのお店が流行っていますように。
 
 

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